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全力疾走しなければ何も見つからない-羽海野チカ『ハチミツとクローバー』

『ハチミツとクローバー』というタイトルが具体的な意味を持つのは最終回だけだ。なので、それまで読み進めていた読者は、そのタイトルにどのような意味を読みとっていたのだろうか。

かわいらしい絵柄で、人生や恋に深刻に悩むこともあるけれども概ねコメディタッチで物語られる。美大を舞台にしているので、割りと限られた範囲での話かと思っていると、意外と登場人物たちは遠方に移動したりする。

例えば、登場人物の竹本くんは、恋がうまくいかず就職活動に進展がなく作品制作にも限界を感じる中、自分を見失い失踪する。ママチャリで失踪したのだが、そのまま旅を始めてしまう。紆余曲折があり、彼は結局東京から北海道の稚内まで移動してしまうのだ。

その旅の途中で、フィクションならではの出会いがあり、彼は自分の為すべき仕事を見出す。非現実的な感がなくもないが、そうでなければ彼が旅をする意味はなかっただろう。旅から戻ってきた竹本くんは、わかりやすいほどに逞しくなっていた。

主要な登場人物の森田さんが拉致され強制的にその美術を担当させられる映画がある。ジョージ・ルーカスをモデルにしたようなその映画の監督と彼が率いる映画制作会社のエピソードが一番印象に残った。社屋で停電があった際に、皆が握りしめたライトセイバーの明かりを頼りに何がおこったのだとうろたえる。1コマだけのシーンだが、その会社がとても楽しそうであることがはっきりとわかる。

美大生が卒業してからどのような職業に就くのかよく知らなかったが、いろいろな就職先があるようだ。作品づくりにおいて否応なしに優劣があるとしても、彼らはそれぞれの仕事を見出し、そこでものをつくり続けるのだろう。

ところで、実らなかった恋に意味はあるのかと自問し続ける竹本くんは、就職先に移動しながらその答えらしきものを見出す。そのときやっとハチミツとクローバーが現れるのだが、これは他者の幸福を願うことの困難さと大事さを示しているのかも知れない。

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